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「アリーナにきたのは初めてなので、勝手が分からないのですが、勝手がわからない感じでやろうと思います」と本人も軽い調子でMCしていたし、おそらくこの日集まった人たちの多くにとっては正体不明なアーティストであったに違いない、日本が生んだ奇跡のポップ・マエストロ=トクマルシューゴ。だが、この人がただ者でないということは、1曲目“PARACHUTE”を聴いた横浜アリーナのオーディエンスは誰もが一瞬でわかったはずだ。

今回の『NANO-MUGEN』ではメイン・ステージに向かって右側に1つのみ設置された「DJ & ACOUSTIC STAGE」。ここに最初に現れたのがトクマルシューゴ。その後ろにドラム、前方にはステージの床に直に座り込んだパーカッション、そしてパーカッションやアコーディオンなどをこなす女性マルチ・プレイヤーという不思議な4人編成でステージに現れた彼は、

いきなり超速アコギ・プレイと美麗メロの1人コラボレーションでフロアを圧倒!
 続く“VISTA”の、アコーディオンの調べとアコギのアルペジオと、ヴィブラートのきいたトクマルの歌メロ、異世界に誘うようなメロとコードワーク……繊細でいて、それでいて何者にも侵されない強さと意志を孕んだ独特の音楽世界に、1万人が身動きも忘れたかのように見入っている。

民族音楽っぽいアコーディオンがソウル・フラワー・ユニオンっぽいフリーキーな空気を描き出したかと思えば、スロウなギターのアルペジオで雨だれのような陰鬱な風景を映し出したりと、その楽器編成からは想像もつかない多彩なサウンドを鳴らしながら、寓話のように「今、ここ」の僕らの生活を冷徹に射抜いていく。

あたたかなアコギと優しいメロディが描き出す、“BUTTON”のとめどない涙と悲しみの風景には戦慄が走るほどだ。最後は変拍子のお祭りグルーヴで“WEDDING。日本のポップ・ミュージックの奥深さを強く印象づけた30分間だった。

01.PARACHUTE
02.VISTA
03.TYPEWRITER
04.LIGHT CHAIR
05.SANNGANICHI
06.BUTTON
07.MUSHINA
08.MOP
09.GREEN RAIN
10.WEDDING

文/高橋智樹 | 写真/TEPPEI