
11年ぶりの開催を迎えた「NANO-MUGEN FES.」は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアコースティックセットで開幕! 「みなさん、『NANO-MUGEN FES.』へようこそ! 自分らしく、自由に楽しんでもらえたら、俺らも幸せなんで。最後までよろしくお願いします!」という後藤正文の言葉とともに、アコースティックギター2本の掛け合いで奏で始めたのは“ブルートレイン”。会場の熱気の感触を確かめるようにじっくりと始まったアンサンブルが、ゴッチの歌とともに高まり、Kアリーナ一面のクラップを呼び起こしてみせる。
「残念ながら、インドネシアでの開催を中止せざるを得なくなりまして。一緒に行く予定だった、特に若いバンドとも一緒にやりたいなと……」と語るゴッチのMCに導かれて、たかはしほのか(リーガルリリー)が舞台に登場。たかはしのハイトーンとのハーモニーで新たな色彩を得た”ソラニン”では、アウトロでOASIS”Wonderwall”のフレーズとのマッシュアップ状態に突入、場内から驚きと感激の声が上がる。
「この後、俺たちの盟友・ストレイテナーのみんなが出てきます。バチバチにライブハウスで一緒にやってきた仲だけど、今日さっき再会して、顔見るだけで安心するような存在だなと思って」と語りかけるゴッチに応えて、熱い拍手が巻き起こる。最後は最新楽曲でもある同フェスのテーマソング”MAKUAKE”。晴れやかなグルーヴが会場を軽やかなクラップへと誘い、高らかなシンガロングが「NANO-MUGEN FES.」開幕の実感とともに会場に広がっていった。
「さっきFountains Of WayneとかHovvdyのメンバーと話してたんだけど、今日めちゃくちゃ雰囲気が良くて、最高だって言ってました。自分のことのように嬉しいです」……2日目も終盤に差し掛かったSIDE STAGEから、ASIAN KUNG-FU GENERATION・ゴッチはそんな言葉で充実感を伝えていた。洋楽/邦楽の枠組みを超えたフェスを自分たちの手で作る――という「NANO-MUGEN FES.」の精神が、11年の時を経てなお、いや今こそより成熟した形で実現していることが、この日の空気感からも確かに窺えたし、それを誰より喜んでいるのはメンバー自身だろう。
2日目のアコースティックセットも“ブルートレイン”からスタート、場内を軽快なクラップで包んでみせたところで、「ちょうどこの曲を出した当時、くるりが”赤い電車”という曲をリリースしていまして――全然偶然なんですけど。『自分の蒼さが疾走していく』みたいなイメージで“ブルートレイン”ってつけたので、特に対抗したわけではないです(笑)」といったMCでアリーナを和ませてみせる。「それでは、昨日とは違う曲を……」と披露したのは“海岸通り”。初期の名バラードでオーディエンスを酔わせながら、アウトロはまたしてもOASIS“Wonderwall”に着地、熱い歓声を呼び起こしていく。
昨年行ったクラウドファンディングが実り、現在音楽制作スタジオ「MUSIC inn Fujieda」を建設中であることに触れたゴッチ。「岸田くんも言ってくれましたけど、ここに来て縁が太い流れになってきていて。Fountains Of Wayneも、スタジオを貸してもらったこともあるし、2003年にフロントアクトをやらせてもらったり。『NANO-MUGEN』にも出てくれて、『次やるなら呼べよ』みたいな話をしてくれたりして。僕のプライベートスタジオは『Cold Brain Studio』という名前で――BECKの“Cold Brains”という曲から取らせていただきまして。BECK先生に会った時に、『今度スタジオを作る時はお前の曲をスタジオの名前にするよ』というジョークも言ってくれまして」と語るゴッチの口調からも、来るBECKのアクトへの高揚感が滲む。「俺たちの『NANO-MUGEN FES.』の歌い納めに……」と披露した“MAKUAKE”で、「よかったら歌ってください!」と呼びかけるゴッチの歌が、オーディエンスとの間にでっかいコール&レスポンスを巻き起こし、フェスの祝祭感をなおも高めていった。
文/高橋智樹 | 写真/MITCH IKEDA
数多の名演が飛び出した1日目のラストを飾るべく、ヘッドライナーとしてMAIN STAGEに立ったASIAN KUNG-FU GENERATION。Achico(Ropes)/George(MOP of HEAD)をサポートメンバーに擁して登場した後藤正文/喜多建介/山田貴洋/伊地知潔の4人は、“センスレス”イントロのセッションから満場のクラップを巻き起こし、開演早々クライマックス級の高揚感を描き出していく。圧巻のシンガロングの輪の中、さらに“ブラッドサーキュレーター”から“リライト”へ流れ込み、アリーナ一面に拳とシンガロングを突き上がらせてみせる。「俺たちの願いはただ一つ。どうかみんな、自分らしく楽しんで!」と“リライト”間奏で語りかけつつ、「“リライト”は俺たちの曲っていうより、みんなの曲だと思ってるので」と割れんばかりのコール&レスポンスを誘う。ラスサビでオーディエンスにボーカルパートを委ねると、Kアリーナ震撼の大合唱! 最高の光景だ。「こうやって多くの人の顔を見ることができて、この日にやっと辿り着けて、本当に嬉しいです」と語るゴッチの表情にもリアルな感慨が滲む。
中盤の“君という花”ではKANA-BOON・谷口鮪がゲストとして登場、ギターを谷口に託してゴッチはハンドマイクスタイルで舞台上を袖から袖まで練り歩き、会場一面のシンガロングとハイジャンプを誘っていく。「11年前の『NANO-MUGEN』に来てくれたり、『NANO-MUGEN』コンピ盤を聴いて一緒に歩んでくれた世代が、こうして一緒にステージに立ってくれるのはすごく嬉しいことで」とゴッチが語る。「ずっと一緒にやってきた人たちとか、Fountains Of Wayneみたいに僕たちが憧れてきた世代とか……。連なりっていうか、川の流れのように続いていて。そのどこに自分たちがいるかはわからないけど、音楽を続けてる限りは、その流れにちゃんと浸かっていたいなって思ってる。それが、文化に対する自分たちのマナー。その水流を豊かにできるバンド、ミュージシャンになりたいなって思いながら、活動してます」という言葉に、温かい拍手が広がる。
「『NANO-MUGEN』のために作った、懐かしい曲を……」と”夏蝉”をひときわエモーショナルに響かせたところから、“柳小路パラレルユニバース”、“Re:Re:”、そして“遥か彼方”――と一気にクライマックスへ昇り詰めて本編終了! アンコールの“UCLA”ではHomecomings・畳野彩加が参加、豊かなハーモニーで場内の熱気をなおも高めていく。最後、ゴッチが「俺たちのマブダチです!」と地元の仲間=LINK・柳井良太、小森誠を舞台に招き入れ、「一緒に失敗を繰り返してきた仲間たちだけど、いつでも『ここから!』と思った時が、自分の“MAKUAKE”だと思ってます」と8人編成で披露したのは“MAKUAKE”。《もう何を振り返る/振り返るなよ/そう今を誰より抱きしめて/暗闇を振り返らずに朝陽が昇る頃だね》……最後には谷口・畳野も呼び込み、全員で肩を組んで一礼する姿に、惜しみない拍手喝采がいつまでも続いていた。
「朝からありがとうございます! 昨日のステージやってから、24時間経ってない……」とライブ中にゴッチが笑いを誘っていた通り、2日目のASIAN KUNG-FU GENERATIONは2アクト目、MAIN STAGEトップバッターとしての出演。前日・1日目にもアコースティックセットでの朝イチ出演はあったものの、「NANO-MUGEN FES.」のオーガナイザー=ASIAN KUNG-FU GENERATIONが、しかもメインのバンドセットで昼の早い時間に登場するのは初めてのことだ。この日のタイムテーブルからも、来るBECKのアクトへのメンバーの想いが伝わってくる。
ゴッチがハンドマイクでスタンバイしたところに、喜多のアコギスライドのイントロが流れると、Kアリーナが大歓声に包まれる。もちろん、BECKのカバー“Loser”だ。「『NANO-MUGEN FES.』へようこそ。今日のヘッドライナーは、BECK! 俺たちの10代の頃からの憧れで……今日やるかわからないけど、やってくれたら、一緒に歌って!」とリリックを巨大スクリーンに表示。BECKへのリスペクトあふれる大合唱が、広大な空間を熱気で満たしていく。そこから“Re:Re:”へ繋いでアリーナを揺らすと、さらに“リライト”で歓喜の極限炸裂状態に。「“リライト~みんなのうた~”みたいな、自分で作ったかのような感じでシェアしてくれたら」というゴッチの呼びかけに応えて、魂のコール&レスポンスと大合唱が巻き起こっていった。《未来は僕らの手の中》と伸びやかに響かせた“ライフ イズ ビューティフル”から“転がる岩、君に朝が降る”、さらに”ブラックアウト”へと繋ぎ、オーディエンスとの一体感をよりいっそう高めたところで“君という花”! 会場一面のハイジャンプとシンガロングが、痛快なまでの躍動感とともに咲き乱れた。
後半、キヨシ監修「KIYOSHI'S KITCHEN」のカレーが6時間待ちの大盛況という話に触れつつ、ゴッチがゲストとして呼び込んだのはくるり・岸田繁! ギターを抱えた岸田、ゴッチとがっちり握手を交わして一言「カレー食べたいわ!」。岸田が編曲・プロデュースを手掛けて再録した“little lennon/小さなレノン(born in 1976 ver)”が豊潤かつダイナミックに鳴り渡り、アリーナの多幸感をなおも熱く押し上げていった。
”荒野を歩け”からライブはいよいよ終盤へ。”江ノ島エスカー”、さらに”遥か彼方”と曲が進むたびに、オーディエンスの熱量は刻一刻と高まり、クラップとシンガロングの渦が広がっていく。
「昨日は懐かしい顔っていうか、ずっと一緒にライブハウスから転がってきた仲間たちと、『11年ぶりだね』みたいな気持ちでやりましたけど、今日は……11年前だったら思い付かないようなことが起きてる。くるり岸田くんと一緒に曲を録音したりとか」。ゴッチが感慨深げに語る。「俺たちは俺たちなりに、あっち行ったりこっち行ったりさ――蛇行するつもりはなかったんだけど、気持ちだけはまっすぐ走ってるつもりで。時々、何が正しいのか迷ったりすることもあるけど……ライブの現場に来て、お客さんの顔が綻んだり緩んだりしたのを確認した瞬間、『音楽やってきてよかったな』って思うし、これからも続けていきたいと思います」……まっすぐなゴッチの言葉に熱い拍手喝采が広がり、ラストナンバー“MAKUAKE”が晴れやかなコール&レスポンスとともに響き渡っていった。
文/高橋智樹 | 写真/TETSUYA YAMAKAWA
2006年の初出演以降「NANO-MUGEN FES.」お馴染みのパーティー集団として存在感を発揮してきた、ロックもハウスもドラムンベースもヒップホップも軽やかに越境するルール無用のDJアクト=THE YOUNG PUNX、ゲストボーカル・Spoonfaceを擁して11年ぶり「NANO-MUGEN FES.」のステージに立つ! “WAKE UP MAKE UP”からクレイジーなビートとポップな映像演出でオーディエンスの心のタガを外すと、“YOU’VE GOT TO...”ではHal RitsonがMAIN STAGEまで張り出してアリーナを煽りまくる。「おはようございます! 『NANO-MUGEN FES. 2025』、Make some noise!……スゴイネ!」とSpoonfaceが“READY FOR THE FIGHT”でパワフルなラップを繰り出す
一方、Halは満場の観客を一面のハンドウェーブへと導く。ASIAN KUNG-FU GENERATION”アンダースタンド”をサンプリングした”UNDERSTAND”あり、『イカゲーム』のイメージを映像にも取り込んだ“SQUID GAMES”あり……と目まぐるしく移り変わる音像とビートの中でしかし、アリーナの熱気と高揚感はぐいぐいと昇り詰めていく。最後の“ROCKALL”まで30分というのが信じられないほど、躍動感の密度がバグったアクトだった。
2日目はなんと朝イチからSIDE STAGEに登場したTHE YOUNG PUNX、“BIG BEN”を始業の号令がわりに、Spoonfaceの「おはようございます! Are You Ready?」のコールから“WAKE UP MAKE UP”で満場のクラップを呼び起こしてみせる。ポップでキッチュなアニメーション映像も、THE YOUNG PUNXのアクトの醍醐味ではあるのだが、この日のLEDスクリーンはライブ中のメンバーの表情メインで、映像効果はスパイス程度に挿入される程度だった。それによって、かえってリアルなライブ感が増したせいか、Hal RitsonやSpoonfaceの一挙手一投足がオーディエンスの熱量とテンションに直結するような、珠玉の熱狂天国が朝から展開されていた。“YOU’VE GOT TO...”をHal&Spoonfaceの2MCスタイルで熱唱した後、「おはようございます、横浜! すごいね!」とHalが思わず歓喜の声を上げる。“READY FOR THE FIGHT”ではアリーナ一面のジャンプからコール&レスポンスが巻き起こり、その多幸感は“JUMPIN AROUND”から“UNDERSTAND”でなおも高まっていく。“GANGSTER TRIPPIN”の満場のハンドウェーブを目の当たりにして、Halも「みんなサイコー! ロックンロール! すごいね!」と感激を隠せない様子だ。“ROCKALL”の最後、Halがギターを構えてバンド風のキメで締める姿に、広大な空間が大歓声で沸き返っていった。
文/高橋智樹 | 写真/TETSUYA YAMAKAWA
1日目も折り返し点を過ぎたMAIN STAGEに登場するのは、「NANO-MUGEN FES. 2012」にも出演のUSパワーポップの雄・Fountains Of Wayne。「ライブ自体、Fountains Of Wayneは10年以上やってなくて、2020年にはベースのアダム(アダム・シュレシンジャー)が亡くなって。今年『復活する』って発表されたけど、『NANO-MUGEN FES.』には厳しいかな?と思ったけど――出てくれることになりました。本当に嬉しい!」と前説で語る喜多建介の言葉からも喜びが滲む。
「こんばんは!」。軽やかに日本語で挨拶するクリス・コリングウッドに大歓声が巻き起こる中、1stアルバム『Fountains Of Wayne』の“I've Got a Flair”からライブはスタート。オルタナティブ・ロックのタフネスとパワーポップの快感原則が、虚飾なき演奏と歌からダイレクトに伝わってきて、アリーナは一瞬でFountains Of Wayneの磁場に支配されていく。「ありがとう!」と呼びかけながら“Denise”の骨太ポップ感でオーディエンスを揺らし、カントリーの薫り漂う“No Better Place”で場内の熱気と爽快に響き合っていく。「ありがとう、ASIAN KUNG-FU GENERATION! So nice to be here!」と語るクリスに、拍手喝采が広がる。Fountains Of Wayneと「NANO-MUGEN FES.」の13年ぶりの邂逅が、どこまでも豊かで力強いロックの開放感となって、会場の隅々にまで広がっていく。
”Barbara H.”や”Red Dragon Tattoo”、さらに「この曲のビデオクリップを渋谷で撮ったんだ」と紹介した”Troubled Times”など、アルバム5作品からFountains Of Wayneの粋を凝縮したようなセットリストでこの日のステージに臨んだ彼ら。ロックフェスのステージ上でも、本人たちは激することもなく、丹念に楽曲を歌い演奏していくのだが、それがかえって独特のオルタナ職人感を醸し出し、Fountains Of Wayneの「今」のタフネスを浮き彫りにしていた。ヒットナンバー”Stacy's Mom”では一面のクラップ&シンガロングが巻き起こり、アリーナを熱く揺さぶっていく。「明日もまた会おう!」と最後にひときわパワフルに響かせた“Sink to the Bottom”で、最高のエンディングを彩ってみせた。
2日目も「こんばんは!」のクリスのコールから始まったFountains Of Wayneのステージは、3rdアルバム『Welcome Interstate Managers』の“Bought For A Song”からスタート。昨日のラストを飾った“Sink to the Bottom”でアリーナに巻き起こった歓声は、さらに“Mexican Wine”で熱く高まっていく。「Thank you very much, AKG!」というクリスの言葉に広がる拍手喝采も、1日目よりも大きな熱量を帯びているように見えた。「昨日もいた人?」というクリスの呼びかけに応えて、オーディエンスが勢いよく手を上げる。
“Valley Winter Song”のカントリー感、“Hackensack”のメランコリックなポップ感、一転してアグレッシブな緊迫感とともに鳴り渡る“Little Red Light”……1日目とは大きくセットリストを変えながら、そのどこを切ってもFountains Of Wayneの音と魂があふれるような、充実のアクトを繰り広げていく。“Radiation Vibe”で会場狭しと広がったクラップとシンガロングの輪に、思わずクリスも「ファンタスティック!」と言葉を漏らすほどだ。
「We love Japan very much」。クリスは静かに、しかしまっすぐに語りかけていた。「長いこと戻ってこれなくてごめん」と伝えた後、「We love you」ともう一度言った。1日目に続いて披露された“Stacy's Mom”に湧き起こった歓声は、やがて熱いシンガロングとなってアリーナを埋め尽くし、Fountains Of Wayneと「NANO-MUGEN FES.」の絆をさらに深く強く結びつけていくように思えた。「またすぐ戻ってきたいよ!」と語るクリスの言葉に、惜しみない拍手が巻き起こり、最後の名バラード“All Kinds Of Time”が「今」と「これから」を祝福するかのように、どこまでも雄大に美しく鳴り渡った。
文/高橋智樹 | 写真/TETSUYA YAMAKAWA
KYTEのフロントマンとして/ソロアーティストとしてここ日本でも支持を集め、2018年のASIAN KUNG-FU GENERATION全国ツアー「BONES & YAMS」には全公演にオープニングアクトとして出演している、UKレスター出身・Nick Moon。「コロナとかがあって、しばらく会えなかったんですけど、今日はずっとアジカンと楽屋が一緒で」と幕間の前説MCで山田が明かしたエピソードからも、両者の親交の深さが窺える。
キーボード/PC/機材が並んだSIDE STAGEに、Nick Moonはひとりで登場。冒頭の2018年発表のファースト・ソロアルバム『CIRCUS LOVE』収録“Something”から、豊潤なピアノの音色と、感情の機微のすべてを声と吐息に乗せて解き放つようなニックのボーカリゼーションで、アリーナを心地好い陶酔で包み込んでいく。「ありがとうございます。日本語話したいけど、緊張してます!ごめん!」とすべて流暢な日本語で語りかけ、「名前はNick、イギリスから来ました。以上です」と続けて歓声を呼び起こしていく。
KYTEの”Boundaries”ではたったひとりで音の銀河を描き出し、新曲“Byzantine”“Bricks”でも澄んだ音空間を繰り広げていくNick Moon。「この建物、大きいね!」と軽快なMCを挟み、“Space 666”まで演奏する頃にはアリーナはすっかりドリームポップの地平に塗り替えられている。「嬉しい! めっちゃ嬉しい! 最後まで観てくれてありがとう。ELLEGARDEN観たい!」と直後のアクト・ELLEGARDENに触れた後、最後に奏でたのは、再びKYTEの”Sunlight”。歪んだ電子音と透徹したピアノの音色が、警鐘と福音を同時に奏でているようなマジカルな浮遊感をもって広がっていった。
2日目は中盤の時間帯のSIDE STAGEに登場したNick Moon、この日もソロアルバム『CIRCUS LOVE』の”Something”からスタート。「お元気ですか? みなさん元気?」という日本語MCはさらに名調子感を増し、凛とした音楽性とトークとのコントラストで場を和ませながら、オーディエンスとの一体感を心地好く高めていく。セットリストは前日と同じながら、2日目ともなるとある種のホーム感が芽生えてくるようで、KYTEの曲“Boundaries”も、新曲”Byzantine”や”Bricks”のサウンドスケープも、より深くアリーナの奥深くまで浸透してくるように思える。たったひとりで音を奏で、澄んだ歌を大空間に解き放つNickの姿が、オーディエンスを強く惹きつけているのがわかる。“Space 666”のピアノの荘厳な響きが、ロックフェスの祝祭感と不思議な共鳴感をもって、心と体に広がっていく。
「アジカンのメンバー、いつも優しい! 最後まで観てくれてありがとう!」。Nickの日本語MCは、すでに「NANO-MUGEN FES.」の観客との間に爽快なドライブ感を生み出している。ラストのKYTEの“Sunlight”をひときわ丹念に歌い奏で、「ありがと! じゃあね!」と軽やかに舞台を去る姿に、惜しみない拍手喝采が巻き起こった。新曲も披露した2日間のステージ、活動再開への期待がいやが上にも高まるアクトだった。
文/高橋智樹 | 写真/TETSUYA YAMAKAWA
1日目SIDE STAGEのラストを飾るのは、USテキサス・オースティン発のインディーポップデュオ・Hovvdy。「レコード屋でジャケットを見て一目惚れしてからずいぶん経ちましたけども、新作も素晴らしくて。みなさんにぜひ聴いていただきたいバンドということで。SIDE STAGEのヘッドライナーとして呼びました!」とASIAN KUNG-FU GENERATION・ゴッチが「ぜひ聴いてほしい洋楽アクト」を紹介するのも、「NANO-MUGEN FES.」ならではの醍醐味だ。
チャーリー・マーティン(Vo・G)&ウィル・テイラー(Vo・G)にベース/キーボード/ドラムを加えた編成で舞台に臨んだHovvdy、“Make Ya Proud”“Portrait”と昨年リリースのセルフタイトル作『Hovvdy』からの楽曲を積極的に披露していく。インディーロック〜スロウコア系の、どこか憂いを帯びた音像の中から、メロディやアンサンブルにチャーリー/ウィルの抑えた衝動がほとばしる――という独特の音楽世界が静かに、静かに深くオーディエンスに浸透し、アリーナを震わせていく。「Thank you, AKG!」と呼びかけるチャーリーの声に、熱い歓声が広がる。
特に最新作の楽曲では、チャーリー/ウィルそれぞれが自分の書いた曲でボーカルを取るスタイルで、”Jean”はウィル、”Bubba”ではチャーリーがボーカルを務めるなど、シンプルなフォーマットながらも多彩な表現を実現してみせたHovvdy。ラストの“Forever”ではイントロからクラップが巻き起こり、ステージからの呼びかけに応えて広がった《forever~》の歌声とチャーリー&ウィルの歌声が共鳴し、至上の音風景を繰り広げていた。
2日目は後半戦、Fountains Of Wayne〜くるりの間の時間帯に登場したHovvdy。この日もチャーリーが歌う“Make Ya Proud”から、ウィル作の“Portrait”へ……とセットリスト自体は同じだったのだが、朝イチのTHE YOUNG PUNXから続く歓喜の超高気圧状態はHovvdyのステージにも影響していて、チャーリーの「いい感じ?」の呼びかけに歓声が広がり、チャーリー&ウィルにも思わず笑顔がこぼれる、といった場面も。ミディアムテンポのアンサンブルの中にアグレッシブな熱量を注ぎ込んだ“True Love”にアリーナが沸き、チャーリーも「ありがと!」と日本語で喜びを伝える。
前作『True Love』(2021年)から披露したライブ中盤の3曲=“Blindsided”“True Love”“Junior Day League”以外はすべて最新作『Hovvdy』の楽曲を揃えた展開からも、2人の「今」に懸ける想いと自信が伝わってきた今回のアクト。2人でリードボーカルを務めた“Bad News”ではチャーリーがハンドマイクにシェイカーというスタイルで楽曲を躍動させ、高らかなクラップに包まれながら鳴り渡った“Forever”では穏やかなメロディが燃え盛るアンサンブルの中に目映く融けていく――。チャーリー&ウィルの楽曲の創造性と歌の肉体性が、満場のオーディエンスの熱気と高め合い、美しいエンディングを迎えていた。2025年のインディーロックの豊かさが、この場所には確かに息づいていた。
文/高橋智樹 | 写真/TEPPEI KISHIDA